コラム:ノーベル物理学賞のIceCubeを支えた「空気ハイドレート」

10月6日、2026年のノーベル物理学賞を、米国ウィスコンシン大学マディソン校のフランシス・ハルツェン教授が受賞することが発表されました。
授賞理由は、IceCubeニュートリノ観測所への貢献と、宇宙物理的起源をもつ高エネルギーニュートリノの発見です。
実はこの観測には、ハイドレートが深く関わっています。

IceCubeは、南極点の深さ1,450〜2,450 mの氷を巨大な光検出媒質として利用しています。
降り積もった雪が圧密されていく過程で、雪粒の間の空気は閉じ込められて気泡となります。
浅い氷ではこの気泡が光を強く散乱させるため、観測には向きません。
しかし深くなるにつれて圧力が増すと、気泡は空気ハイドレートへと変化し、南極点ではおよそ1,350 mより深い氷で気泡はほとんど見られなくなります。

この空気ハイドレートの屈折率が氷とほぼ同じであることを、1995年に南極ボストーク基地の氷床コアを用いて初めて測定し示したのが、北海道大学の内田努先生らのグループです。(当研究室でも学会活動等を通じて内田先生と交流させていただいています。)
この成果はIceCube Collaborationの論文でも、深部の氷が光学的にほぼ透明であることの根拠として引用されています。

ハイドレートは、水とガスがあれば生じうる物質です。
資源・エネルギーや環境の分野にとどまらず、宇宙を観測する巨大な実験装置の成立にも関わっていることを示す一例といえるでしょう。

参考文献

IceCube Collaboration, Journal of Glaciology, 59(218), 1117–1128 (2013).
T. Uchida, W. Shimada, T. Hondoh, S. Mae, N. I. Barkov, Applied Optics, 34(25), 5746–5749 (1995).